大好きな近所のパン屋さんの話
近所のパン屋さん
大好きです
愛してやみません
昔から親しまれているパン屋さんだそう
いろんなものが新しくなったり変わってきたのにそのパン屋さんだけ取り残されてしまったような、時が止まっているような、そんな不思議な雰囲気がある
ガラス張りの店内は外から丸見えだ
お店の人は日々観察したところ男性がふたり、女性がひとり
朝早い時間は女性、日中は男性のどちらかがいる
お客さんがいない時にカウンターで新聞や本を読んだりパンの並びを移動させていたりする姿を見かける
入店すると「いらっしゃいませ」とはりきりすぎずかつ歓迎している感じで声をかけてくれる
ちょっと「おかえりなさい」の響きに似ていて
わたしはついおはようございます、とかこんにちは、とか挨拶を返す
小さなお店だから、お店の人はお客さんの様子をずっと見ていることが可能だ
わたしがどれにしようかあれこれ脳内で会議を繰り広げているとそれをじっと見られているような気分になる
曲などもかかっておらず、おすすめの品!といったにぎやかなPOPやポスターなどの装飾の類はない
媚びてなくて無駄がないところがわたしは好きだが殺風景ともいえるかもしれない
鉤括弧型に配置された3段の棚には形がさまざまなパンとパンの名前と値段が記されたプライスカードがずらりと並んでいる
パンたちの息づかいが聞こえそうなほどひっそりと静かな店内でただパンを選ぶことに集中する
パンたちはお気に入り度に差はあれど何を選んでもおいしいと信じているし、ちょっと個性的だから毎回まず店内をぐるりと見てから考え込んでしまう
常時30種くらいあるだろうか
ひとつひとつがラップでぐるぐると包まれている
どれもはちきれそうなくらいたっぷりとしていて、かぶりついてむぐむぐと食べたい感じだ
お惣菜系はほとんどがロールパンにいろんな具がぎっしり挟まったものや載ったものたちだが、サンドイッチも少しある
例えばハム、チーズ、チキン、ハンバーグをはじめコロッケ、魚のフライといった揚げ物、卵やカボチャに留まらずひじきやれんこんなどをマヨネーズで和えたサラダなどもあり、これらの具はみんな手作りのように見える
たまにビーフシチューパイやソーセージドーナツなんかもある
甘い系はあんぱんやメロンパンといった定番をはじめ、帽子の形をしたクリームパン、そしてなぜかコロネの種類がとても多い
餡やクリームの味は季節によって違ったりする
ポンデケージョやサーターアンダギーが小袋に詰められ並んでいる日もある
フルーツサンドや小倉ホイップサンドなんかもある
看板商品なのかカップケーキ
決まっていつも必ず棚の1番下の段、トレー2枚分ほどの幅にぎっしり並んでいる
黄色くてもこもこしたフォルムは外からもよく見えるし、初見だとその大きさに驚くこと間違いなしだ
プレーンな食パンやロールパンも当然ある
一品でも購入の方無料でどうぞと札があってパンの耳が置かれている時もある
一度もらったことがある
サンドイッチ用にスティック状に切り離されたものだけでなく、食パンの背中と呼ぶのがいいのか、四角い端っこの部分も一緒にたっぷり入っていた
こんなに無料でもらっていいのかと思いつつ、とても気前が良いとも思った
さて、毎日この豊富なパンを作るのに一体どれだけの時間が必要なのだろうとパンに向かい合うわたし
どんなに悩んでいてもトングはカチカチ鳴らさないのが信条である
ようやく決まってトレーを持っていくと
ビニールの手さげ袋にパンを入れてくれる
今は有料化されてる袋もこのお店では今も無料だ
支払いは現金のみ
このお店のパンの生地は特徴的だ
みっちりしてて、ふかふかもちもち食べ応えがあり焼き目の薄い色白さん
触るとさらさらしていて油っこくないのがいい
パイやカップケーキなどを除いてみんな同じ生地が使われているようだ
ほとんどが200円以下なのにふたつくらい食べればおなかいっぱいになれる
通りかかるたびに、今日もパンがあるな、お店の人いるな、と当たり前の目に入ったままの状況をしみじみと噛み締めてしまう
わたしはどうやらいつも通りのお店の存在を確認してホッとしているらしい
家族で経営しているのかもしれない
跡を継ぐ人がいるのかなとか勝手に心配している
でもお店のあのスタイルを保つことはあの3人だからなせるような気もする
今の代で閉店してしまったとしても
残念だけど納得してしまうような気がする
きっとお店の雰囲気そのまま、ひっそりと静かに無くなってしまうのだろうなと思う
そしてたまに誰かがテナント募集の張り紙を見て
ここのパン好きだったな
って少しさみしそうにそっと言ったり思ったりするのだろう
日々営業しているのにそんな気持ちになってしまうなんて余計に考えすぎかしら
実はわたしはパン屋さんで働いた経験がある
作る方も売る方も
通ってるうちにお店の人と仲良くなって
あわよくば働かせてもらえないかなと時々妄想する
おいしくて他ならないパンの秘密を知りたい
夫が残業で終電で帰ってきたとき、お店からパンの匂いがしたよと話していたからずいぶんと早くから(深夜か)パンを焼き始めているのかもしれない
買ってきた大きなカップケーキをふかふかと頬張りながら
お店に思いを馳せていたら文字に起こさずにはいられなくなってしまいつらつらとたくさん打ち込んでいた
ふと我に帰る
「おいしい」